演劇作品『べつのほしにいくまえに』(趣向)が「CoRich舞台芸術まつり!2024春」のグランプリを受賞しました。

監修として携わった演劇作品『べつのほしにいくまえに』(趣向)が、「CoRich舞台芸術まつり!2024春」のグランプリを受賞しました。応募総数62作品からのグランプリです。また、本作に出演されていた梅村綾子さんと和田華子さんが演技賞を受賞されました。おめでとうございます!うれしいです。

審査員の方々のコメントは以下の通りです(https://stage.corich.jp/festival2024/grand_prixより)

グランプリ作品・団体について

丘田ミイ子

 <はじめに>ここでは主に本作を「グランプリ作品」に決定するに至った経緯と審査員の一人として感じた作品の力について綴らせていただきます。本作を未見の方で内容を知ってから本文をお読みになりたい方は、クチコミに設定とあらすじ、登場人物紹介を記しましたので、併せてお読みいただけたらと思います。

 まずは趣向のみなさま、受賞おめでとうございます!作・演出・俳優・スタッフ、関係者の方みなさまに捧げるグランプリです。この場を借りて心よりお祝い申し上げます。

 本作の素晴らしいところは、“互助・共助のための結婚法”という新たな法律とその施行によって、今を生きる人々が何を感じ、考え、喜び、苦しみ、生きているのかを一人ひとりにフォーカスして描き切っている点であったと私は思います。新たな法律によって婚姻率が上がったこと。しかし、その裏では一筋縄ではいかない人と人との関係や暮らしがあること。「結婚」という主題にとどまらず、「介護」や「出産・育児」など多くの社会的ケア問題の側面を含みながら、人の心の揺らぎを鮮やかに魅せた本であり、演出であり、俳優のお芝居でした。その総合力が抜きん出て高かったことから本作をグランプリに決定致しました。

 多くのトピックや人々の状況が盛り込まれていながら、誰も何も置き去りにされず、しっかりとまとめられていることにも主宰であり、劇作家・オノマリコさんの技術の高さを感じました。一方で、群像劇として全員をくまなく拾い上げ、円満へと導く技術が素晴らしかっただけあって、個人的には「それぞれの登場人物の日々や生き様、その凹凸によりフォーカスした物語も知りたい」という新たな欲求も生まれました。これはいち観客の単なる願いに過ぎませんが、本作の登場人物をそれぞれ主人公に据えたオムニバス作品があったら、その時も迷わず足を運ぶと思います。そのくらい、俳優全員が一人ひとりの人物を、その人にしか体現できないチャームを以て魅力的に活写していました。俳優の技術の高さも受賞の大きな理由であったことをここに改めて明記しておきたいと思います。しかしながら、登場人物たちが多く、その生き方や考えが多様性に富んでいたことは、それだけ観客にとっても多くの視点や選択肢が用意されていたということでもあります。客席の誰もが物語の中の誰かにシンパシーを覚え、心を寄せられるようにつくられていたこと。それは本作が掲げた「誰も取り残してはならない」という社会へのメッセージそのものであったようにも感じ、やはり現代に、そして後世に残す演劇として素晴らしい成果を遂げていると感じました。喫緊に向き合うべき社会問題を扱った本作の上演においては、「べつの星」というコミュニティで行われたことと同様の意見の共有、多くのディスカッションが必要であったことと想像します。それらの時間を含め、大所帯のカンパニーで丁寧に挑んだ大作の完走に心より激励申し上げます。グランプリ作品に向けた文章はここで終わりますが、私個人が感じた本作の魅力、心惹かれたシーンなどについては別途クチコミに書かせていただきます。改めまして、趣向『べつのほしにいくまえに』の皆様、受賞おめでとうございます!

河野桃子

 客席と舞台が地続きになり観客もその一員となっているような自助会のシーンと、シェイクスピア作品の人名や枠組みをもちいた構成。それぞれ異なる演劇の作用が、メリハリとしても効いており、演劇のさまざまな楽しみが詰まっていました。
 “ケア”についての知識や配慮に裏打ちされた劇作。そして俳優それぞれの背負う役割が、設定という面だけでなく、「この作品を、役を、台詞をとおしてなにを届けるか」を意識的に演じられている方が多かったように感じます。俳優、劇作、演出、各スタッフワークどれをとっても作品としての眼差しの一体感がありました。
 その眼差しによって、(この点は選考には影響しませんが)演劇としてできることでおそらく誰かの強い救いとなった作品だろうことも、書き添えておきます。この作品がうまれて良かったと、心から思います。

關智子

※現地に伺えない關審査員の代わりに代理人が鑑賞したため、關審査員の評価は空欄です。

深沢祐一

 日本の結婚制度へ問いを突きつける本作は観客の共感と議論を呼ぶものである。同性のパートナーと子どもを設けたい、恋人と友人どちらとも一緒にいたい、老いた親族を介護したい……さまざまな動機で「結婚」を望む登場人物たちを『夏の夜の夢』の世界に引き入れ、多様な「ケア」のかたちを提示していた。見事な俳優のアンサンブルと考え抜かれた空間設計も作品に多大な貢献をしていた。観終わったあとに大切な誰かと意見を交わしたくなる作品にグランプリを贈ることができたことを嬉しく思う。

松岡大貴

 「演劇の目的は自然に鏡を掲げること」という台詞は、シェイクスピアの名文句としてあまりに有名ですが、趣向『べつのほしにいくまえに』はまさにそのような作品だと思います。今の時代に鏡を向ければ、そこには人と人との関係性や、その結果築かれる共同体について、これまでの枠組みをこれまで以上に見つめ直した時代として映るのかもしれません。それはより小さな単位で、1人と1人、あるいは数人の世界をどのように関わって構築して行くのか。向き合うことが可能になってきていると思います。
ケアは様々な関係性を考える上でのキーワードになっていますし、本作で扱う婚姻制度は現行機能不全を起こしている代表的な制度でしょう。しかし、それだけではないはずです。映し出されたか鏡から何を読み取るのかは、いつも我々にこそ求められているはずです。