2025年度、当ゼミの和泉昌希さんの卒業論文が、特に優れた研究に贈られる「明治学院大学社会学部 学部長賞 最優秀賞」を受賞されました 。受賞論文の全文は、こちら(2025年度社会学部門・最優秀賞)からご覧いただけます。
和泉さんの論文「後期近代における性的寛容の内実ーー大学生おける寛容構造の質的分析」は、現代日本の若年層において向上したとされる性的マイノリティへの「寛容性」の内実を問い直し、その深層に潜む権力構造を明らかにした傑出した研究です 。以下、少しだけ論文のポイントを解説します。
現在、性的寛容に関する先行研究の多くが量的調査に偏重しており、寛容傾向を示す社会的属性を明らかにする一方で、寛容性の内実を捉えきれていません。また、性的寛容性に関する日本における研究は極めて限定的です。このような先行研究の課題を踏まえて和泉さんは、「日本においてどのような寛容が確認されるのか」、また、寛容概念が持つ矛盾を指摘する議論を参照しながら、「日本においても嫌悪感情や拒否感情を含むかたちの寛容が見られるのだろうか」という2つのリサーチクエッションを立て、質的調査を行い、現代日本における性的寛容の内実の一端を明らかにしました。
理論面において本論文は、寛容概念の系譜を整理した上で、ウェンディ・ブラウンが指摘する「ガバメントとしての寛容」という視座を、現代日本の大学生の意識を解読するための分析枠組みとして的確に援用しています。実証研究においては、大学生への半構造化インタビューから得られた質的データを丁寧に分析し、寛容を「非干渉的」「限定的」「共感に基づく」という3つに類型化しました。特に、現代の大学生が「差別はいけない」という規範を内面化しつつも、実際には「自分たちの生活圏を乱さない限り」という条件付きで承認する「限定的寛容性」の実態や、寛容が「他者との心理的距離を維持するための防御的戦略」として機能している側面を導き出した点は極めて示唆に富んでいます。
これらの知見は、ヘテロノーマティビティが単に弱体化したのではなく、より巧妙で不可視な形へと変容・再編されている実態を批判的に浮き彫りにしたものであり、セクシュアリティ研究における重要な貢献と言えます。また、「寛容」が他者への無関心や境界線の引き直しによって支えられているというパラドックスを、ナラティブから実証的に指摘した本論文は、性的マイノリティに対する寛容性をめぐる量的調査の限界を補完する重要な学術的意義を持っています。
本研究の成果は、学術的な知見に留まらず、今後の多文化共生社会や教育現場における「共生」のあり方を再考する上で重要な指針を与えるものです。
以上の通り、本論文は理論・方法論・社会的意義のいずれにおいても極めて水準が高く、指導教員として今回の受賞を心より嬉しく、誇りに思います !